まめちしきvol.27『中世のブランディングとマーケティング―仕掛け人は静物画の画家』 

ファン・ダイク 油彩 1610年

今日一般的な言葉である「静物画」という名称が使われ出したのは、1650年頃のオランダからと言われています。stilleven (スティルレーフェン)という言葉から、英語のStill lifeやフランス語のnature morte という言葉が生まれました。直訳すると死んだ自然という意味になってしまって「はて?」と感じますが、この言葉が生まれた当時は、これらの絵が、命のない対象を直接観て描かれたからだったと思います。

中世の静物画では、画家たちがその力量を存分に発揮しました。特に明暗や質感表現を重視し、写実的な描写を行っていました。この点で、それまでの例えば平面的な線画であるクセニアのような絵とは異なっています。当時の画家たちの「どうだ、凄いだろう!」と得意満面な顔が浮かぶような力作揃いです。

実は、この静物画の普及には画家たちのマーケティング努力があったようです。
英雄や神々の絵、キリスト教絵画に比べて、静物画は「ただ見たままを描いただけなんでしょ。」と、道徳的にも知的にも1ランク低いものとみなされていました。それをより高尚なものと位置づけるために、画家たちは古い文献のクセニアやリュパログラフィアの記述から静物画の存在を正当化し、「これは古代ギリシャのジャンルを再興したものだ。いや、それ以上だ!」と箔をつけたようです。それによって静物画を描く画家たちの地位は少し上がりました。

いつの時代もマーケティングやブランディングは重要ですね。

(ライター晶)

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